奈良には、ただ「美しい」というだけではない光があります。春日山の麓に落ちる夕暮れ。雨上がりの石畳。晩秋、木々の葉が褪せ始めた頃の柔らかな色。写真家の故・入江泰吉氏は、そんな奈良の静かな時間を数多く残しました。私自身、特に晩秋の作品が好きで時折、入江泰吉記念奈良市写真美術館へ足を運び、ただぼんやりと写真を眺めています。先日は、写真家 織作峰子氏の「光韻|まほらま」展を拝見しました。吉野山などの風景を、金箔や銀箔に定着させた"箔フォトグラフィ"は、不思議な奥行きがあり、眺めているうちに時間の感覚が少し曖昧になっていくようでした。当店には、スケッチを趣味にされる方々と同じように、カメラを片手に奈良を歩かれるお客様も多くいらっしゃいます。東大寺や春日大社だけではなく、ふとした路地、古い格子、雨の庭、障子越しの光。奈良は、「何を撮るか」よりも「どんな時間を見つめるか」が面白い土地なのかもしれません。はり新でも、そんな静かな時間を過ごしていただければ嬉しく思います。
