2026年、奈良国立博物館で特別展「吉野・大峯―山岳信仰の遺宝―」が開催されました。
吉野・大峯というと、桜の吉野山を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、その山々は古くから山岳信仰の地であり、修験道の歴史と深く結びついてきました。
その修験道の祖とされるのが、飛鳥時代の人物・役行者(役小角)です。葛城山や大峯山などで修行したと伝えられ、奈良を歩いていると、吉野・大峯から離れた寺院でも役行者の姿や伝承に出会います。
私が印象に残っているのは、大和郡山の松尾寺です。行者堂には、前鬼・後鬼を従えた大きな役行者像が祀られています。役行者を中心に前鬼・後鬼が並ぶ姿を見ると、修験道というものが山の中だけにとどまらず、奈良の寺々にも広がっていったことを感じます。
生駒山の宝山寺にも役行者の伝承が残ります。境内の般若窟は、役行者が修行したと伝えられる場所です。現在の寺院の姿だけを見ていると気づきにくいのですが、その土地の歴史をたどっていくと、奈良の山と信仰との結びつきが見えてきます。
役行者については、史実と後世に生まれた伝承とを分けて考える必要があります。それでも、人々はなぜ険しい山へ入り、そこを祈りの場所としてきたのでしょう。
寺院や仏像だけでは見えてこない奈良があります。吉野・大峯を知ることは、山そのものを信仰の場としてきた、もう一つの奈良を知ることでもあるように思います。
博物館で知ったことをきっかけに、いつか実際の土地を訪ねてみる。そんな楽しみ方も、奈良にはあるのではないでしょうか。
※特別展「吉野・大峯―山岳信仰の遺宝―」は終了しています。本ページは、当時の展覧会と奈良の歴史を記録するアーカイブとして掲載しています。