子どもの頃の平城宮跡は、大きな野っ原でした
いま平城宮跡歴史公園を訪れると、堂々とした第一次大極殿や朱雀門が迎えてくれます。
広い園内には展示施設や休憩所も整備され、奈良を代表する観光地の一つとなりました。
しかし、私が小学生だった昭和50年代の平城宮跡は、いまとはまったく違う景色でした。
大極殿も朱雀門もありません。
展示施設もありません。
広い野原が広がり、ところどころに発掘跡を保護する盛り土があるだけでした。
近鉄電車が園内を横切り、架線に引っ掛けないよう気を付けながら凧揚げをしたり、友達と野球をしたり。
そんな遊び場だったのです。
私は、ならまちで育ちました。
奈良公園は歩いて行ける身近な場所でしたが、平城宮跡は少し遠く、父に頼んで友達を車に乗せてもらい遊びに行く「特別な日の公園」でした。
当時の私にとって平城宮跡は、
「鹿のいない奈良公園」
そんな存在でした。
奈良公園も大好きでしたが、鹿が落とし物をするので、芝生に寝転んで遊ぶことはあまりありません。
その点、平城宮跡では思い切り芝生に寝転び、空を見上げることができました。
子どもの頃の、そんな思い出が今でも残っています。
遷都1300年祭を機に、大きく姿を変えました
平成22年(2010年)の平城遷都1300年祭を機に、平城宮跡は大きく生まれ変わりました。
第一次大極殿や朱雀門が復元され、展示施設も充実し、奈良時代の都を体感できる歴史公園へ。
子どもの頃の遊び場は、いまでは国内外から多くの人が訪れる奈良屈指の観光地になりました。
奈良へお越しの際には、ぜひ訪れていただきたい場所の一つです。
奈良時代の「食卓」をご覧になりましたか
平城宮跡では、建物だけでなく展示も見どころです。
その中に、奈良時代の**「食卓風景」**を再現した展示があります。
ご飯。
汁物。
魚や野菜のおかず。
そして、小さな高坏(たかつき)に盛られた**「蘇(そ)」**。
蘇は牛乳を長時間煮詰めて作る乳製品で、「古代のチーズ」とも呼ばれています。
『日本書紀』にもその名が記され、当時は貴族へ献上されるほど貴重な食べ物でした。
展示をご覧になって、
「どんな味がするんだろう。」
そう思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「ごみ」が教えてくれる奈良時代の暮らし
実は、奈良時代の食生活は、歴史書だけから分かったわけではありません。
平城京の発掘調査では、魚の骨や木の実の殻、野菜の種、動物の骨など、人々が捨てた「ごみ」が数多く見つかっています。
一見すると何の価値もないように思えるものですが、それらは当時の暮らしを知る大切な手掛かりです。
何を食べ、どんな器を使い、どのような生活を送っていたのか。
1300年前の人々の日常は、「ごみ」が静かに語ってくれています。
店内の**「はり新文庫」には、奈良文化財研究所監修の『見るだけで楽しめる!平城京のごみ図鑑』**があります。
題名だけを見ると少し変わった本ですが、発掘された「ごみ」から奈良時代の暮らしや食文化を読み解く、とても興味深い一冊です。
もちろん、この本にも蘇が登場します。
歴史は、立派な宝物だけが語るものではありません。
人々が何気なく捨てたものの中にも、奈良時代の暮らしが息づいています。
展示で見た「蘇」を、実際に味わう
当店では、この古代の味をもとに再現された蘇を、お料理の一品としてご提供しております。
奈良時代の料理そのものを再現しているわけではありません。
それでも、1300年前の人々が味わった食文化の一端に触れていただければと思っています。
平城宮跡で歴史を歩き、
展示で奈良時代の暮らしを知り、
そして実際に味わってみる。
「見る歴史」が、「味わう歴史」へとつながる。
それも奈良ならではの楽しみ方ではないでしょうか。
奈良の歴史は、今も食卓に受け継がれています
当店では蘇のほかにも、
- 飛鳥鍋
- 吉野葛
- 大和野菜
- 柿酢
など、奈良に受け継がれてきた食材や郷土料理を大切にしています。
歴史は寺院や遺跡だけに残されているものではありません。
その土地で育まれ、食卓へ受け継がれてきた味もまた、奈良の歴史です。
平城宮跡で1300年前の都を歩いたあと、ならまちで奈良の味も楽しんでいただければ幸いです。
店主より
子どもの頃、友達と野球をしていた野原が、いまでは多くの人が歴史を学びに訪れる場所になりました。
時代は変わりましたが、奈良の魅力は今も昔も変わりません。
歴史は、建物を見るだけではなく、その時代の人々の暮らしに思いを巡らせることで、もっと身近なものになります。
当店の**「はり新文庫」**には、奈良の歴史や文化に関する本を少しずつ集めています。
今回ご紹介した『平城京のごみ図鑑』も、その一冊です。
お食事をお待ちいただく間や、お帰り前のひとときに、ぜひ手に取ってご覧ください。
1300年前の奈良に暮らした人々が、少しだけ身近に感じられるかもしれません。


