春日大社から高畑へ 三本の「禰宜道」を歩く
春日大社から、ならまちへ。
多くの方は春日大社の表参道を戻り、奈良公園、興福寺、猿沢池を経て、ならまちへ向かわれると思います。
けれども、時間に少し余裕があれば、いつもとは違う奈良を歩いてみませんか。
春日大社と高畑を結ぶ、禰宜道(ねぎみち)です。
春日大社に仕えた神職の方々が、高畑方面から春日大社へ通った道と伝えられています。
現在も「上の禰宜道」「中の禰宜道」「下の禰宜道」と呼ばれる三本の道があります。
観光客で賑わう春日大社の参道からほんの少し入っただけなのに、周囲の空気が変わります。
木々に囲まれ、鳥の声を聞きながら歩く道。
私も好きで、今でもよく歩いています。
〈春日大社の参道から、ほんの少し脇へ。そこから静かな禰宜道が始まります。〉
三本ありますが、私はそれぞれ使い分けています
三本の禰宜道は、同じ春日大社と高畑を結ぶ道ですが、実際に歩いてみると、それぞれに少しずつ表情が違います。
私自身も、その日の目的や気分によって歩く道を変えています。
普段のウォーキングなら「下の禰宜道」
普段のウォーキングで私がよく歩くのが、下の禰宜道です。
高畑の閑静な住宅地から歩いていくと、ごく普通の生活道路の先で道を曲がり、ほどなく森の中へ入ります。
〈高畑の住宅地から下の禰宜道へ。この先を曲がると、間もなく森の中へ入ります。〉
森へ入ると、それまでの町の風景から雰囲気が一変します。
道には小石が転がり、ところどころに木の根が張り出しています。苔が生えて滑りやすいところもあります。
高畑から春日大社の参道へ向かって歩けば上り坂になるので、私にとってはちょうどよいウォーキングコースです。
ただ歩くだけなのですが、町のすぐそばにこんな道があること自体、奈良らしいことなのかもしれません。
〈下の禰宜道。小石や木の根、苔のあるところもありますので、足元には少し注意して歩きます。〉
知らなければ通り過ぎそうな「中の禰宜道」
中の禰宜道は、私の場合、どちらかというと春日大社からの帰り道に使います。
入口は意外なところにあります。
帰り道であるなら二之鳥居をくぐるすぐ手前、左側。
〈二之鳥居をくぐるすぐ手前、左側にある中の禰宜道への入口。手水舎の反対側です。
知らなければ、そのまま通り過ぎてしまうかもしれません。〉
春日大社の参道が混み合っているときなど、私はここから入り、高畑方面へ抜けることがあります。
大勢の参拝者が歩く参道のすぐそばに、こんな静かな道がある。
奈良に暮らしていても、その対照を面白く感じます。
考え事をしたい日には「上の禰宜道」
そして、少し考え事をしたい日には、私は上の禰宜道を歩きます。
高畑側の入口には灯籠が立っています。
〈高畑側から上の禰宜道へ。三本の禰宜道のうち、この入口には灯籠が立っています。〉
上の禰宜道は、下の禰宜道と比べると道幅が少し広く、路面にも大きな凹凸があまりありません。
最近は途中にトイレも設けられています。
急いでどこかへ向かうのではなく、木々の中で少し立ち止まって深呼吸する。
頭の中を整理して、また歩き始める。
そんなことをしていても違和感のない場所です。
考え事をしたいときには上の禰宜道へ。私にとって、歩いているうちに気持ちが落ち着いてくる道です。
歩きたい日は、下の禰宜道。
春日大社から静かに抜けたいときは、中の禰宜道。
考え事をしたい日は、上の禰宜道。
かつて春日大社に仕えた人々が行き来したと伝わる道を、今では散歩道として、ウォーキングの道として、ときには抜け道として歩いている。
古い道が「昔の道」として残されているだけではなく、今も人が歩く道として生きている。
私はそんなところにも、禰宜道の魅力を感じています。
〈春日大社のすぐ近くとは思えない静けさ。道そのものを楽しみながら歩きます。〉
禰宜道を抜けると、高畑へ
禰宜道を高畑側へ抜けると、そこから奈良歩きはさらに広がります。
近くには新薬師寺があります。
さらに足を延ばせば白毫寺へ。その先から山辺の道へと歩いていくのも、とてもよいハイキングコースです。
一方、高畑から東の山側へ向かえば、春日奥山へと続く道があります。ただし、こちらは気軽な町歩きとは少し性格が違います。歩く時間や装備などを考えて向かいたい場所です。
そして西へ歩けば、ならまち。
高畑は、春日大社から歩いてきた人が、さらにいくつもの奈良へ向かって歩き出せる場所でもあります。
【地図:春日大社・三本の禰宜道・高畑】
奈良に暮らしていて気づかなかった、贅沢な散歩道
コロナ禍で遠くへ自由に出掛けることが難しかった頃、私は奈良の町をよく歩きました。
その頃によく歩いたのが、
高畑 → 禰宜道 → 春日大社 → 若草山 → 手向山八幡宮 → 二月堂 → 東大寺裏 → 戒壇堂
というコースです。
当時は遠くへ行けないから近所を歩いていた、という感覚でした。
しかし今になって考えてみると、ずいぶん贅沢な散歩道です。
森の中の古道を歩き、春日大社を通り、若草山の麓へ。手向山八幡宮から二月堂へ向かい、東大寺の裏手を歩いて戒壇堂へ。
森を歩いたかと思えば神社が現れ、山の麓へ出たかと思えば、今度は古寺の境内へ入っていく。
しかも、その間ずっと奈良の市街地から遠く離れているわけではありません。
奈良に暮らしていると当たり前に思ってしまいますが、都会に暮らす方から見れば、こんな場所を日常の散歩として歩けること自体が、奈良の魅力なのかもしれません。
禰宜道は、明るいうちに
禰宜道は、春日大社の森の中を通る道です。
春日大社でも安全上、日没後は立ち入らないよう案内されています。
特に下の禰宜道には、小石や木の根、苔などで足元の悪いところがあります。雨の日や雨上がりは、さらに滑りやすくなることもあります。
歩きやすい靴で、明るい時間帯に散策することをおすすめします。
春日大社から、少し遠回りしてならまちへ
春日大社を参拝したあと、そのまま表参道を戻るのもよいでしょう。
でも時間に余裕のある日には、禰宜道を歩いて高畑へ出て、そこからならまちを目指してみてはいかがでしょう。
奈良公園の賑わいとは少し違った奈良を見ることができます。
高畑から西へ歩き、やがて元興寺周辺へ入れば、そこは「ならまち」です。
私どもの店「はり新」は、元興寺の西側、古くから奈良盆地を南北に通じてきた上ツ道沿いにあります。
春日大社をお参りして、禰宜道の森を歩き、高畑からならまちへ。
そして、お昼ごはん。
春日大社からならまちへ、少し遠回りして歩く。
急いで名所から名所へ移動するだけでは見えてこない奈良が、禰宜道にはあるように思います。






