【若草山を歩く|街と原始林との境界】

若草山を歩く|街と原始林との境界

奈良公園の東に、なだらかな芝生の山肌を見せる若草山があります。

奈良に暮らしていると、若草山は毎日のように目にする山です。冬の山焼き、新緑の春、そして山肌を歩く鹿たち。

奈良市街の東には、若草山、御蓋山、花山、高円山と山々が連なっています。その中でも若草山は、奈良市民にとって特に親しみのある山ではないでしょうか。

そして若草山は、眺めるだけでなく、自分の足で山頂まで登ることができます。

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〈奈良公園の東に広がる若草山。奈良市民にとって、とても身近な山です。〉

 

一重目までが、実はいちばん大変

私も以前、山麓から若草山山頂まで歩いて登ったことがあります。

「登山」というと少し身構えてしまいますが、本格的な登山というほどではありません。ただ、山麓から一重目へ向かう階段は意外に急で、私が登った時には「ここが一番大変なのでは」と思ったほどでした。

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〈山麓から一重目へ。歩き始めは意外と急な登りが続きます。〉

 

それでも高度が上がるにつれて、振り返った景色がどんどん変わっていきます。

一重目、二重目と登っていくと、眼下に東大寺大仏殿。その向こうには奈良市街、さらに奈良盆地が広がります。

普段は下から見上げている大仏殿を、今度は山の上から眺める。

「ああ、東大寺はこんな場所に建っているのか」

それまで自分の足で歩いてきた奈良の街が、一枚の地図のようにつながって見えてきます。

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〈眼下に東大寺大仏殿。地上を歩いている時とは、奈良の街がまったく違って見えます。〉

 

山頂で古代の奈良に出会う

若草山の山頂まで登ると、そこには鶯塚古墳があります。

景色を楽しむために登ってきた山の頂に古墳がある。

奈良では何気なく歩いている場所で、突然、古代の遺跡に出会うことがありますが、ここもそのひとつです。

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〈若草山山頂にある鶯塚古墳。山頂でも古代の奈良に出会います。〉

 

そして、山頂付近にも鹿がいます。

山頂の鹿は、ちょっと人見知り?

これはあくまで私個人の印象ですが、若草山山頂の鹿は、興福寺や東大寺周辺にいる鹿とは少し雰囲気が違うように感じます。

人の近くにいることはあっても、触られることを嫌がる鹿が多いような気がするのです。

聞いた話では、普段暮らしている場所によって鹿の群れや行動範囲にも違いがあるそうです。さらに若草山の東側、春日奥山の森に暮らす鹿は、もっと人を警戒するとも聞きます。

そう考えると、近鉄奈良駅から興福寺、東大寺周辺で大勢の観光客を相手にしている鹿たちは、奈良公園の鹿の中でも、いわば「営業部隊」なのかもしれません。

同じ奈良の鹿でも、場所によって人との距離感が少し違う。

そんなところを観察するのも、若草山を歩く楽しみです。

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〈山頂で出会う鹿。麓の鹿とは少し人との距離感が違うように感じます。〉

 

西には奈良の街、東には春日奥山

若草山に登ったら、奈良市街の景色だけでなく、ぜひ反対側にも目を向けてみてください。

東側には、春日奥山の深い森が広がっています。

奈良市街から毎日のように眺めている東の山々ですが、市民が気軽に登る山となると、やはり若草山は少し特別です。

すぐ隣の御蓋山は春日大社の神域。その奥には春日山原始林が広がっています。

実は、市街地のすぐ近くに、これほど原生的な姿を残した森林があること自体が珍しいそうです。

春日山原始林は、春日大社の神山として古くから守られてきました。平安時代の841年には狩猟や伐採が禁じられ、その後も森が守り継がれてきたことで、現在では特別天然記念物、そして世界遺産「古都奈良の文化財」の一部にもなっています。

そんな森を、若草山の山頂から「覗き見る」ことができます。

西を向けば、眼下に東大寺大仏殿。その向こうに奈良市街、奈良盆地が広がり、遠くには二上山、葛城山、金剛山の山並みまで望むことができます。

そして振り返って東を向けば、春日奥山の森。

私はこの景色を見ると、いつも少しわくわくします。

「この森の向こうは、どうなっているんだろう」

普段暮らしている奈良のすぐ隣なのに、何か別の世界を覗き込んでいるような感覚があります。

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〈若草山の東に広がる春日奥山。市街地のすぐそばに、深い森が残されています。〉

 

夜になると、境界が見える

この感覚がもっとはっきりするのが夜です。

夜景を見るために若草山山頂へ行くと、西には奈良市街から奈良盆地へと人工の光が広がっています。

ところが、振り返って東を見ると景色は一変します。

春日奥山の方向は、漆黒です。

西には、人が暮らす街の光。

東には、深い森の闇。

昼間には山並みとしてつながって見えていた二つの世界が、夜になるとはっきり分かれて見えます。

若草山は、奈良の街と春日奥山との境目にある山なのだ――そんなことを実感します。

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〈西には奈良の街の灯り。その反対側には、春日奥山の暗い森が広がります。〉

 

奈良の街を、上から眺めてみませんか

東大寺では大仏殿を見上げ、興福寺では伽藍を歩き、ならまちでは古い町並みの中を歩く。

それも奈良の楽しみ方ですが、時間に余裕があれば、ぜひ若草山にも登ってみてください。

少し息を切らしながら山を登り、振り返るたびに奈良の街が小さくなっていく。

山頂から西を見れば、それまで歩いてきた奈良の街があります。

そして東を向けば、春日奥山の森があります。

奈良の街から歩き始めて、街と深い森との境まで行って帰ってくる。

若草山登山は、そんな小さな奈良の旅なのかもしれません。

下山したあとは、奈良公園からならまちへ。

山の上から眺めていた古い奈良の街を、今度はもう一度、自分の足で歩いてみてください。

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〈若草山から奈良公園へ。下山途中にも奈良らしい景色が続きます。〉

 

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