【はり新の床下にあった謎の地下空間】

お客様の足元に眠っていたもの

はり新の建物は、約250年前に建てられた町家です。

現在は和食店として営業しておりますが、かつては両替商として使われていました。

古い建物には、長い年月の中で忘れられた歴史が残されていることがあります。

今回は、私自身が中学生の頃に見つけた「謎の地下空間」のお話です。


子犬を探していて見つけた縦穴

昭和55年頃、私が中学1年生だった頃のことです。

当時飼っていた子犬が床下へ入り込み、そのまま姿が見えなくなりました。

探し回っているうちに、床下に大きな縦穴があることに気付きました。

穴は直径およそ1メートル、深さも1.5メートルほど。

さらに、その先には横穴も続いていました。

しかし横穴はすでに崩れており、その先がどうなっているのか確認することはできませんでした。

同居する祖父母を含め、それまで家族の誰もそのような空間が床下にあることを知りませんでした。

子犬を探していたことで、偶然その存在が明らかになったのです。

もっとも、その二年前に亡くなっていた曾祖母なら何か知っていたのかもしれません。

しかし、その時にはもう確かめることもできませんでした。

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隣家でも見つかった同様の穴

それから十数年後の平成中期。

隣家の解体工事の際にも、同じような縦穴が見つかりました。

実は、その隣家はもともと当家と同じ建物の一部でした。

両替商だった頃には一続きの建物でしたが、いつの時代か別の所有者へ渡り、独立した家屋になったと伝えられています。

つまり、地下空間が見つかった二つの建物は、もともと同じ両替商の建物だったことになります。

位置関係から考えると、二つの穴は地下で繋がっていた可能性もあります。

父によれば、当時は研究者の方も調査に訪れたそうですが、横穴の崩落が激しく、用途を特定することはできなかったとのことでした。


解体工事で見つかった隠し部屋

さらに別の発見もありました。

平成初期、両替商時代の母屋を解体した際のことです。

工事の途中で、家族も存在を知らなかった小部屋が見つかりました。

その床には備長炭が放射状に丁寧に敷き詰められていたそうです。

当時の話では、湿気を防ぎながら貴重品を保管するための「隠し蔵」ではないかと考えられていました。

確かな記録が残っているわけではありません。

しかし、両替商にとって金銭や帳簿は大切な財産です。

そのような空間が設けられていたとしても不思議ではないように思います。


地下空間の正体は分かっていません

現在分かっているのは、

同じ両替商の建物の中で複数の地下空間が見つかったこと。

そして、母屋からは隠し蔵と思われる部屋が発見されたことです。

しかし、それらが互いに関係していたのかどうかは分かっていません。

私が見つけた地下空間は貯蔵庫だったのでしょうか。

財産を守るための施設だったのでしょうか。

あるいは別の用途があったのでしょうか。

残念ながら、その答えは今も分かっていません。

地下の穴はすでに埋め戻され、横穴も崩れてしまいました。

真相を確かめる術は、もう残されていないのです。


父が気にしていた違い棚の壁

生前、父から聞いた話があります。

座敷の床の間の横にある違い棚の壁が、どうも普通の造りより手前に出ているように見えるというのです。

父は、

「もし壁の裏に人が入れる空間があったなら、そこから床下へ降りて地下空間まで行けたのかもしれないな」

と話していました。

もちろん、これは父の推測です。

父が物心ついた頃には、そのような仕掛けが動くことはなかったそうです。

「私が子供の頃には、もう動かなかったけどな」

そう言って笑っていたことを覚えています。

本当にそのような通路があったのか、それとも父の想像だったのか。

今となっては確かめることはできません。

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古い町家が伝えるもの

奈良町には多くの町家が残っています。

しかし、建物が何百年もの時間を生き延びる間には、人の記憶も記録も少しずつ失われていきます。

その結果、用途の分からない部屋や、由来を知る人のいない空間だけが残されることがあります。

当店で見つかった地下空間も、そのような歴史の断片の一つなのかもしれません。


ご来店の際には

いま皆様がお食事をされているお座敷の下にも、かつては誰も知らなかった空間がありました。

そこが何のために作られ、誰が使っていたのか。

真相は分かりません。

けれども、そのような物語が今も静かに残っていることこそ、古い町家の魅力ではないでしょうか。

奈良町を歩かれる際には、建物の表情だけでなく、その建物が秘めているかもしれない歴史にも思いを巡らせていただければ幸いです。

IMG_3668.jpeg  〈違い棚から畳二枚分手前の床下に縦穴がありました〉

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